私が会計事務所に入ったばかりの大昔、通帳の入力といえば、1件ずつ日付と金額と摘要を打ち込んでいくものでした。1か月分の通帳を入れ終わるのに、半日かかることもありました。
いま、弥生会計を使って一番早く入力する方法は何か。私の答えは、「AIに前月の仕訳日記帳を見せて、弥生にそのまま取り込めるCSVを作ってもらう」方法です。実際にやってみたら、仕訳は一発で取り込めて、銀行の残高もぴったり合いました。大昔は半日かかっていた作業が、いまは30分くらいになっている感覚です。
この記事では、そのやり方をできるだけ具体的にご紹介します。あわせて、私がこれまで事務所で試してきたAI活用もいくつかお話しします。経営者の方にも、同業の税理士・会計事務所の方にも、参考にしていただけたらうれしいです。
やり方の全体像:AIに「指示書」と「お手本」を渡しておく
仕組みはシンプルです。ChatGPTなら「プロジェクト」、Claudeなら「スキル」という機能を使って、AIに毎回同じ手順で動いてもらうための入れ物を作っておきます。その中に入れておくのは、次の2つです。
- 指示書:弥生会計の仕訳日記帳にインポートできるCSVの「型」を書いたもの。どの列に何を入れるか、厳密に決められています。
- 作業の手順:まず資料を読み取る → 前月以前の仕訳を見に行く → それを参考に仕訳を作る → 決められた型でCSVにする、という流れ。
あとは毎月、たとえば9月分を入力したいなら、8月分の仕訳日記帳と、9月の通帳を渡すだけです。前月の仕訳日記帳は「お手本」なので、1か月分でなくても、もっと前のものでもかまいません。とにかく、その会社でいつもどんな仕訳をしているかをAIに見せることが大事です。
「型」を守ってもらうのがいちばん大事
弥生会計(デスクトップ版)の仕訳日記帳に取り込めるデータは、項目の数も順番も決まっています。弥生の公式サポート情報によると、項目は全部で25項目。1列目の「識別フラグ」で、ふつうの仕訳なのか、伝票の1行目なのか、といった種類を4桁の数字で指定します。勘定科目は24文字まで、摘要は64文字まで、といった文字数の決まりもあります。
弥生会計の仕訳データ(インポート形式)の主な決まり
項目は25項目で、カンマ区切りのCSVかテキスト形式。1列目の識別フラグは、伝票以外の仕訳データなら「2000」、1行の伝票データなら「2111」など。仕訳メモ(180文字まで)や付箋の項目もあります。数字・日付・金額の項目は半角で入力します。
出典:弥生会計 サポート情報「仕訳データの項目と記述形式」
人がこの型を覚えて手でCSVを作るのは大変ですが、AIは指示書さえあれば、毎回きちんと型を守ってくれます。型が1か所でもずれると取り込めないので、指示書は細かく書いておくのがコツです。
うまくいくポイントは3つ
① わからない取引は、無理に科目を当てず「仮払金」に
AIに一番やってほしくないのは、わからない取引を「たぶんこれだろう」と、それらしい科目に置き換えてしまうことです。そうなると、間違いが正しい仕訳に紛れて、あとから見つけにくくなります。
そこで、前月の仕訳を見てわかるものだけ科目を埋めてもらい、わからないものは入金も出金も全部「仮払金」にしてもらうことにしました。仮払金に入っているものだけを、あとで人が確認して振り替えればいい、という形です。
② 注意が必要なところは「仕訳メモ」に書いてもらう
弥生の取り込み形式には「仕訳メモ」の欄があります。AIに、注意が必要な取引にはこの欄へメモを書いてもらうようにしました。すると、取り込んだ仕訳にそのままメモが貼られた状態になります。弥生の画面でメモを見れば、「ここは前月と違うんだな」「ここは内訳が確認できていないんだな」と一目でわかります。
③ 一発で取り込めて、残高も合った
実際に、ある顧問先の1か月分の通帳でやってみました。できたCSVを弥生の仕訳日記帳に取り込んだら、エラーなく一発で入り、銀行残高もちゃんと合いました。最初にこれを見たときは、正直「これはすごい」と思いました。
税理士 眞弓倫子
いろいろなAI活用をやってきましたが、これは弥生会計の入力方法として、本当に時短になると感じています。大昔、通帳の入力に半日かかっていたところが、いまは30分くらいになっているのではないかと思います。
取り込んだあとに私が必ず見ているのは、仕訳メモと仮払金です。ここだけは注意して確認しています。
ChatGPTの「プロジェクト」でも、Claudeの「スキル」でもできる
このやり方は、特定のAIでないとできないわけではありません。私はどちらでも試していて、どちらでもできます。違いは「入れ物」の作り方です。
| 使うAI | 入れ物 | 入れておくもの | 毎月やること |
|---|---|---|---|
| ChatGPT | プロジェクト | 指示書(弥生CSVの型)と作業手順を、プロジェクトの指示やファイルとして登録 | プロジェクト(スキル)を開いて、前月の仕訳日記帳と今月の通帳を渡す |
| Claude | スキル | 指示書と作業手順を、スキルとして保存 |
どちらも、一度作ってしまえば毎月同じ手順で動いてくれるのがポイントです。毎回ゼロから「弥生のCSVの形式はね…」と説明する必要がなくなります。
私がClaudeで作ったスキルでは、さらに次のような工夫も入れています。
- CSVを作る前に、読み取った通帳の残高が1件ずつつながっているかを計算で確かめる
- CSVと一緒に仕訳案のExcelも作り、推測で付けた科目は黄色、仮払金は赤で色分けし、「どの前月の仕訳を参考にしたか」の根拠も書いてもらう
- 前月に使っていない科目・補助科目は勝手に作らない
通帳だけじゃない:現金出納帳、請求書にも広げる
この仕組みがうまくいったので、いまは通帳以外にも広げています。
- 現金出納帳:通帳と同じように、前月の仕訳日記帳を見に行ってもらい、弥生に取り込めるCSVを作ってもらいます。
- 請求書:AIは請求書も読めるので、読み取ってCSVにしてもらいます。実際にやってみて、できました。
「資料を読む → 前月を見る → 型どおりのCSVにする」という流れは、資料の種類が変わっても同じです。入れ物を一つ作っておけば、横に広げていけます。
領収書は、自作のアプリで
領収書だけは、別の方法をとっています。OpenAIのCodexに手伝ってもらって、領収書を読み取るアプリを自分で作りました。
流れは、領収書をScanSnapで一気にスキャンして、アプリにアップロードするだけ。読み取りには、費用が安いのでGoogleのGemini APIを使っています。読み取った内容は、通帳と同じように弥生の仕訳日記帳に直接取り込めるCSVにまとめて出してくれるので、それを取り込めば終わりです。
勘定科目については、「この摘要が来たらこの科目」という対応をアプリに記憶させることができます。ただ、同じ摘要でも会社によって使う科目が違うのが悩みどころです。ここは一つの課題として、これからアプリを改良していこうと考えています。
ほかにも、私がやってきたAI活用
弥生の入力のほかにも、事務所ではいろいろな場面でAIを使っています。その中から、効果を感じているものをいくつかご紹介します。
前月の給与明細から、翌月分を作る
前月分の給与明細(弥生給与で出力した明細一覧のPDF)をAIに渡して、同じ形式で翌月分を作ってもらっています。毎月の形式が決まっている書類は、「前月をお手本にする」という考え方が弥生の入力と同じように使えます。弥生から出力した賃金台帳を、金額は一切変えずに1人1枚の見やすい形に組み直す、といったこともAIに任せています。
メールの確認と、返信の下書き
受信したメールをAIに読んでもらい、返信が必要なものを拾い出して、返信の下書きまで作ってもらっています。返信が漏れていたメールを見つけてくれることもあります。送信は必ず自分で確認してから。下書きまでをAIに任せる使い方です。
届いた資料の整理と、顧客ごとの記録
お客様から写真で届く通帳や給与の資料は、ファイル名がばらばらになりがちです。AIに1枚ずつ中身を見てもらい、「団体名_資料の種類_期間」のようなわかりやすい名前に一括で変えてもらっています。また、これまでのメールのやり取りから顧客ごとに覚えておきたいこと(担当者、契約の範囲、毎月の資料の流れなど)を整理して、顧客管理のノートに追記してもらうこともしました。
学童保育の会計報告スライド
学童保育の試算表や推移表から、保護者向けの半期の会計報告スライドを作ることもあります。前期との比較や、数字の動きをわかりやすく図にするのは、AIが得意な作業です。
どれにも共通しているのは、「型」と「お手本」をAIに渡しておくこと、そして最後の確認は人がすることです。
試すときの注意点とチェックリスト
最後に、このやり方を試してみる方に向けて、注意点をまとめておきます。
はじめて試すとき
- 最初は少ない件数で試してみるいきなり1か月分を取り込まず、数件で取り込めるか確認してからにしましょう。
- 取り込む前に、弥生のデータのバックアップを取っておく
- 使っている弥生会計がデスクトップ版かどうかを確認するこの記事の取り込み形式は、弥生会計(デスクトップ版)の仕訳データの形式です。
AIに作ってもらうとき
- 指示書に、弥生のCSVの型(項目の順番、文字数、識別フラグなど)を細かく書いた
- 前月以前の仕訳日記帳をお手本として渡した
- わからない取引は仮払金にする、とはっきり指示した
- 注意が必要な取引は仕訳メモに書く、と指示した
取り込んだあと
- 仕訳メモが付いている仕訳を確認した
- 仮払金に入っている取引を確認し、正しい科目に振り替えた
- 通帳(現金出納帳)の残高と、弥生の残高が合っている
- 同じCSVを2回取り込んでいない同じデータを取り込み直すと、仕訳が二重に入ってしまいます。
まとめ
弥生会計の入力をいま一番早く終わらせる方法は、弥生のCSVの型を書いた指示書と、前月の仕訳日記帳というお手本をAIに渡しておくことです。わからないものは仮払金に、注意点は仕訳メモに。この2つを守ってもらうだけで、取り込んだあとの確認がぐっと楽になります。
経営者の方は、もしできるなら、ぜひ一度試してみてください。AIの時代、AIを使えないとどんどん遅れてしまいます。使ったほうがいいと、私は思っています。
同業の税理士・会計事務所の方で、私のAI活用をもっと詳しく知りたいという方がいらっしゃれば、コンサルティングとしてお手伝いすることもできます(有料です)。
「うちの記帳もAIで早くできないかな」「事務所でこの仕組みを取り入れたい」という方は、お気軽にご相談ください。
相談を申し込む参考資料
- 弥生会計 サポート情報「仕訳データの項目と記述形式」
https://support.yayoi-kk.co.jp/subcontents.html?page_id=18545 - 弥生会計 サポート情報「インポート・エクスポート」
https://support.yayoi-kk.co.jp/product/account/import.html
※本記事は令和8年10月10日時点の情報をもとに作成しています。各AIサービスや弥生会計の機能・画面は変わることがあります。