AIを触る時間すらなかった税理士が、使い始めたら働き方が変わった話

「先生、AIって仕事で使ってますか?」

最近、お客様との打ち合わせでこう聞かれることが増えました。

今の私の答えは、「はい、毎日使っています」です。

文章を考えてもらう。資料を整理してもらう。数字が合っているかを確認してもらう。最近では、会計ソフトに取り込むデータを作ったり、事務所で使う簡単なシステムを作ったりするところまで、AIに手伝ってもらうようになりました。

でも、税理士法人に勤めていた頃の私は、AIにほとんど触ったことがありませんでした。

気にはなっていたのです。「そういうものがあるらしい」とも聞いていました。

ただ、単純に、触ってみる時間がありませんでした。

新しいことを覚える時間は、いちばん最初に消える

勤務していた頃は、目の前の仕事で一日が終わっていました。

申告の期限。決算。お客様からのお問い合わせ。どれも、待ってはくれません。

AIのことは、気になってはいました。

でも、それを調べて、試して、実際の仕事で使えるようにするまでには、まとまった時間がかかります。

その時間を、どこから持ってくればいいのか分かりませんでした。

予定表の中で、「新しいことを覚える時間」は、いちばん後ろに回されます。そして、いちばん最初に消えます。

今になって思うのは、こういうことです。

忙しい人ほど、AIに触る時間がない。
でも本当は、忙しい人ほど、変わる部分が大きい。

この行き違いが、いちばんもったいないところだと思っています。

事務所を開いて、全部が自分の手に戻ってきた

変わったきっかけは、自分の事務所を持ったことでした。

令和7年12月、名古屋市北区で事務所を開きました。

入力も、資料作りも、メールも、ホームページの更新も、全部が自分の手元にあります。

誰かに回すことはできません。かといって、一日の時間が増えるわけでもありません。

このままでは回らない、と思いました。

そこで、ようやくAIを触ってみたのです。

皮肉なことに、いちばん時間がなかったときに、はじめて時間を作りました。

そして、ここに書いてきたことは、すべてそこから先の話です。何年もかけて身につけたことではありません。

きっかけは、お客様に送る一通のメールでした

最初にAIが役に立ったのは、税務の知識ではなく、文章でした。

税務や会計の話は、正確に書こうとすると、どうしても固くなります。

「本件につきましては、〇〇の規定により……」

自分で読み返しても、これでは伝わらないな、と思う。かといって、砕けすぎると誤解を招く。その加減を考えているうちに、メール1通に30分かかってしまう。

そんなとき、AIに頼んでみました。

「この内容を、経理の専門ではない社長に、分かりやすく伝える文章にしてください」

すると、たたき台が返ってきます。

もちろん、そのまま送ることはありません。内容を確認し、事実関係を確かめ、自分の言葉に直してから送ります。

でも、ゼロから考えるのと、たたき台を直すのとでは、かかる時間がまったく違いました。

ここで私は、はじめてこう思ったのです。

「これは、下書きをしてくれるスタッフのようなものかもしれない」

それまで私は、AIを「答えを教えてくれる機械」だと思っていました。

AIは、答えを教えてくれる機械ではありません。
一緒に手を動かしてくれる相手です。

「これ、もっと楽にできないかな?」と聞くようになった

そこから、使い方が少しずつ変わっていきました。

仕事をしていると、「この作業、毎回面倒だな」と思う瞬間があります。

  • Excelの数字を、会計ソフトに入力し直す
  • PDFを見ながら、同じような仕訳を何十件も作る
  • 数字が合っているか、一行ずつ突き合わせる
  • 同じ形式の資料を、毎月作り直す

以前の私は、「仕事だから仕方がない」と思っていました。

でもあるときから、口ぐせが変わりました。

「これ、AIで何とかできない?」

聞いてみると、意外なほど、いろいろなことができることが分かってきたのです。

給与資料を読み取って、会計データまで作ってもらう

例えば、給与にまつわる仕訳の作成です。

私の事務所では、お客様からお預かりした給与一覧表をもとに、毎月、仕訳を作ります。

給与はいくら。社会保険料はいくら。所得税はいくら。振込額はいくら。それを、会計ソフトに入力していきます。

1社だけなら、それほど大変ではありません。けれど、毎月、何社分も積み上がると、まとまった時間になります。

そこで、AIにこう頼むようになりました。

「この給与資料を読み取って、先月の仕訳を参考にして、会計ソフトに取り込めるデータを作ってください」

今では、弥生会計にそのままインポートできるCSVデータまで作ってもらうことがあります。

私の仕事は、最後の確認です。金額は合っているか。勘定科目の選び方は適切か。消費税の区分は正しいか。

ここは、絶対に人間が見ます。

つまり、こういうことです。
BEFORE / これまで 給与資料 PDF・Excel 人がすべて入力 読む・打つ・見直す 会計ソフト AFTER / いま 給与資料 PDF・Excel AIが下準備 読み取り・仕訳の形に CSVデータを作る 税理士が確認 金額・勘定科目 消費税区分を判断 下準備はAI、決めるのは人。
図1|同じ仕事でも、力の配分が変わりました。

人がすべて入力するのではなく、AIに下準備をしてもらい、人間は確認と判断をする。

同じ仕事でも、力の配分がまったく変わりました。

数字を「探す」仕事も、AIと一緒にやる

会計の仕事では、入力することと同じくらい、確認することが大事です。

たとえば、こんな作業です。

  • この一覧表と、この資料の合計が一致しているか
  • 一致していないなら、その差額はどこから出ているのか
  • この金額を3つの部門に分けると、それぞれいくらになるのか

人間が一つずつ数字を追っていくと、これが意外と時間を食います。しかも、目が疲れてくると、見落としが起きやすい作業でもあります。

そこで、AIに資料を読み込ませて、こう頼みます。

「合計が一致しているか確認してください」
「差額の原因になっていそうな箇所を挙げてください」

すると、候補を出してくれます。

もちろん、その回答をそのまま信じることはありません。最後は必ず、自分の目で確かめます。

けれど、何もない状態から探すのと、候補を絞った状態から確かめるのとでは、たどり着くまでの速さが違います。

AIに任せないと決めていること

ここまで読んで、こう思われた方もいるかもしれません。

「AIに任せて、間違っていたらどうするんですか?」

とても大事なご質問だと思います。

私が決めているのは、次のことです。

判断は、AIに任せない。

税務の判断、勘定科目の最終決定、消費税の区分、お客様にお伝えする内容。これらは、必ず税理士である私が確認し、私の責任で決めています。

AIにやってもらうのは、その手前の作業です。読み取る、並べ替える、形式を整える、候補を出す。言い換えれば、下ごしらえの部分です。

AIにやってもらう = 下ごしらえ ・資料を読み取る ・数字を並べ替える ・形式を整える ・候補を出す 税理士が決める = 味を決める ・税務の判断 ・勘定科目の最終決定 ・消費税の区分 ・お客様への説明内容
図2|AIと税理士の役割分担

料理にたとえるなら、野菜を洗って切ってくれる人がいる、という感覚に近いかもしれません。味を決めるのは、最後まで料理人の仕事です。

それから、もう一つ。お客様からお預かりした情報の扱いには、細心の注意を払っています。どのツールに何を入力するかは、事務所として基準を決めて運用しています。

便利だからこそ、ここは曖昧にしてはいけないところだと思っています。

私は、プログラマーではありません

こういう話をすると、「先生、パソコンに詳しいんですね」と言われます。

実は、そんなことはないのです。

私は税理士です。プログラマーでもシステムエンジニアでもありません。コードを一から書けるわけでもありません。

でも、これは言えます。

「こういうことがしたい」
「この作業を楽にしたい」
「毎月やっているこの仕事、自動化できない?」

そう伝えると、AIが「こういう方法があります」と一緒に考えてくれます。

うまくいかなければ、「ここが違う」「こうしてほしい」と、また伝える。それを何度も繰り返す。

必要なのは、専門知識よりも、「困っていることを言葉にする力」なのだと思います。

そしてこれは、日々現場で手を動かしている方ほど、得意なはずです。自分の仕事のどこが面倒かを、いちばんよく知っているのは、その仕事をしている本人だからです。

AIを使う目的は、「楽をすること」ではありません

AIを使うと、確かに仕事は速くなります。

でも私が一番大きいと思っているのは、速さそのものではありません。

単純作業に使っていた時間を、別のことに回せるようになったことです。

税理士の仕事で本当に大切なのは、数字を入力することではありません。

その数字を見て、

「この会社は今、どういう状態なのか」
「これから何をしたほうがいいのか」
「この社長は、今いちばん何に困っているのか」

を一緒に考えることだと思っています。

入力に追われていると、この時間が削られてしまいます。

AIに任せられる仕事はAIに任せる。その分、人にしかできない仕事に時間を使う。

私は、そういう働き方に変えていきたいと思っています。

小さな会社ほど、AIと相性がいいと思う理由

AIというと、大企業が大きなシステムを導入する話を思い浮かべる方もいるかもしれません。

でも私は、むしろ小さな会社のほうが相性がいい面があると思っています。

社長ご自身が、見積書を作る。メールを書く。請求書を出す。求人票を考える。ホームページを更新する。そういう会社は、たくさんあります。

一つひとつは30分の作業でも、積み上がれば、月に何時間にもなります。

そして、そういう社長ほど、AIを試す時間がありません。かつての私と同じです。

だからこそ、最初の一歩は小さいほうがいいと思っています。

大きなシステムを入れなくてもいいのです。まずは、その中の一つだけ、AIに手伝ってもらってみる。

たとえば、こんなところから始められます。

STEP 1

時間のかかるメール

いつも書くのに悩むメールを、たたき台だけ作ってもらう。

STEP 2

毎月作る資料

同じ形式で作っている資料の、ひな形を作ってもらう。

STEP 3

手元の数字

合計や内訳が合っているか、確認を手伝ってもらう。

うまくいかなくても、失うものはほとんどありません。一つでもうまくいけば、その分の時間が毎月戻ってきます。

私自身も、たった1通のメールから始まりました。

「うちの場合はどうだろう?」と思われたら

私は名古屋市北区で税理士事務所を営んでいます。

税務や会計のご相談はもちろんですが、「この作業、何とかならないですか」というご相談も、よくお受けしています。経理まわりの業務をどう整理するか、どこを自動化できて、どこは人が見るべきか。数字を扱う立場から、一緒に考えることができます。

相談してみる
NEXT / 次回予告

実際に何をAI化したのか、具体的に書きます

今回は、私がAIを使うようになったきっかけについて書きました。

次回はもう少し踏み込んで、税理士事務所の会計業務で、実際にどんな仕事をAIで効率化しているのかをご紹介したいと思います。

給与資料から仕訳を作る。PDFやExcelから会計データを作る。数字を突き合わせる。実際に私がやっている方法を、できるだけ具体的に書きます。

「AIって、文章を作るだけじゃないんだ」。そう思っていただける内容になると思います。

よかったらシェアしてください!