賃上げが厳しい中小企業へ|決算賞与と賃上げ促進税制を考える

決算前チェックリスト

令和7年分の会社員などの平均給与は487万円。国税庁の統計で前の年より1.9%増え、週刊税務通信は「過去最高」と報じています。

このニュースを聞いたときの私の正直な感想は、「ピンとこない」でした。それは大企業の話であって、中小企業はなかなか厳しい。物価高のあおりを受けて、人件費を簡単には上げられない会社がたくさんあります。

だからこそ、お伝えしたいことがあります。給与を上げた分の一部は、税金の控除という形で取り戻せる制度があります。ただし、決算の前に準備しておかないと使えない部分もあります。この記事では、統計の中身を見たうえで、中小企業向けの「賃上げ促進税制」と、決算前にやっておきたいことをチェックリストにまとめました。

平均給与487万円。でも、会社の規模で大きく違う

国税庁は毎年、民間の会社などで働く人の給与を調べて「民間給与実態統計調査」として公表しています。令和7年分の結果は、次のとおりです。

令和7年分 民間給与実態統計調査(要旨)

1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は487万円(前年比1.9%増)。男性597万円、女性342万円。正社員559万円、正社員以外210万円。

出典:国税庁「令和7年分 民間給与実態統計調査」。なお「過去最高」という表現は、週刊税務通信(No.3918)によるものです。

ただ、この487万円は全体の平均です。同じ統計には、働いている事業所の規模ごとの平均給与も載っています。並べてみると、規模によって差があることがよくわかります。

事業所の規模別の平均給与 1〜4人の事業所は380.4万円、5〜9人は413.5万円、10〜29人は453.6万円、30〜99人は454.5万円、5,000人以上は547.5万円。規模が大きいほど賞与の部分が大きい。 事業所の規模別 平均給与(令和7年分・男女計) 給料・手当 賞与 380.4万円 1〜4人 413.5万円 5〜9人 453.6万円 10〜29人 454.5万円 30〜99人 547.5万円 5,000人以上 ※100〜4,999人の区分は省略しています
図1 事業所の規模別の平均給与(出典:国税庁「令和7年分 民間給与実態統計調査」をもとに当事務所作成)

従業員1〜4人の事業所の平均給与は380.4万円、5,000人以上の事業所は547.5万円。その差は約167万円です。

大企業との差は「賞与」にあった

図1をよく見ると、もう一つ気づくことがあります。茶色の部分、つまり賞与(ボーナス)の大きさが、規模によってまったく違うのです。

1〜4人の事業所と5,000人以上の事業所を、給料・手当と賞与に分けて比べてみました。

区分1〜4人の事業所5,000人以上の事業所差
給料・手当360.0万円436.0万円76.0万円
賞与20.4万円111.6万円91.2万円
平均給与380.4万円547.5万円167.1万円

出典:国税庁「令和7年分 民間給与実態統計調査」(男女計)。差は当事務所で計算。

平均給与の差167.1万円の内訳 1〜4人の事業所と5,000人以上の事業所の平均給与の差167.1万円のうち、給料・手当の差は76.0万円、賞与の差は91.2万円で、半分以上が賞与の差。 差 167.1万円 の中身 給料・手当の差 76.0万円 賞与の差 91.2万円 差の半分以上は「賞与」から生まれている 1〜4人の事業所と5,000人以上の事業所の比較(男女計)
図2 大企業との差の内訳(出典:国税庁「令和7年分 民間給与実態統計調査」をもとに当事務所作成。棒の長さは金額に比例)

差の半分以上は、毎月の給料ではなく賞与から生まれています。毎月の給料を上げるのは、来年も再来年も続く固定費になるので、中小企業にとっては簡単ではありません。一方で賞与は、その年の利益を見ながら金額を決められるものです。

ここで、賃上げ促進税制の出番です。

中小企業向けの賃上げ促進税制のしくみ

賃上げ促進税制は、従業員に支払う給与の総額を前の年より増やした会社が、増えた金額の一定割合を法人税から差し引ける(税額控除できる)制度です。中小企業向けのしくみは、次のとおりです。

中小企業向け賃上げ促進税制のポイント

対象:青色申告をしている中小企業者等(資本金1億円以下の法人など。大企業の子会社などは除かれます)。個人事業主も対象です。

要件:国内で雇う従業員への給与等の総額(雇用者給与等支給額)が、前の事業年度より1.5%以上増えていること。

控除率:増えた金額の15%。2.5%以上増えていればさらに15%上乗せ。くるみん認定・えるぼし認定(2段階目以上)などを受けていればさらに5%上乗せ。

上限:その年の法人税額の20%まで。

対象期間:法人は令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度。

出典:中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」(令和8年5月1日更新版)

中小企業向け賃上げ促進税制の控除率 給与総額が前年より1.5%以上増えれば控除率15%、2.5%以上で30%、くるみん・えるぼし認定でさらに5%。控除できるのは法人税額の20%まで。教育訓練費の上乗せは令和8年4月1日以後開始の事業年度から廃止。 控除率は「階段」で上がる 給与総額 1.5%以上増 15% 給与総額 2.5%以上増 30% (15%+上乗せ15%) くるみん・えるぼし 認定の上乗せ +5% 認定の種類と時期に 要件あり 控除できるのは法人税額の20%まで/教育訓練費の上乗せは令和8年4月以後開始の年度から廃止
図3 中小企業向け賃上げ促進税制の控除率(出典:中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」をもとに当事務所作成)

令和8年度の改正で変わったこと

令和8年度の税制改正では、大企業向けの制度は廃止、中堅企業向けは要件を厳しくしたうえで令和9年3月31日で廃止と、縮小の方向になりました。その中で、中小企業向けの制度は現行のまま維持されています(週刊税務通信No.3918掲載の連載によると、税制改正大綱では期限が来たときに適用状況を踏まえて必要な見直しを検討するとされています)。

中小企業向けで変わったのは、教育訓練費を増やした場合の上乗せ(10%)が廃止されたことです。中小企業庁のガイドブックによると、この上乗せを使えるのは法人なら令和8年3月31日までに開始した事業年度、個人事業主なら令和7年分と令和8年分までです。

つまり、これからの上乗せは「2.5%以上の賃上げ」と「くるみん・えるぼし認定」の二つ。そして、今の制度で使えるのは令和9年3月31日までに始まる事業年度です。たとえば9月決算の会社なら、令和8年10月から始まる事業年度までが対象になります。

数字で見るとこうなります

わかりやすくするため、単純な例で計算してみます(実際の計算では、助成金を受けた場合の調整などがあります)。

  • 前期の給与総額 3,000万円 → 当期 3,075万円(75万円増=2.5%増)
  • 控除率は30%なので、75万円 × 30% = 22.5万円を法人税から差し引ける計算
  • ただし上限は法人税額の20%。法人税額が100万円なら、控除できるのは20万円まで

では、上限を超えた2.5万円や、そもそも赤字で法人税がゼロの年はどうなるのでしょうか。

「赤字だから関係ない」とは限らない

令和6年度の改正で、中小企業向けの制度には控除しきれなかった金額を5年間繰り越せるしくみができました。赤字の年に賃上げをしても、その効果が消えてしまうわけではありません。

ただし、繰り越した金額を使える年にも条件があります。中小企業庁のガイドブックでは、繰り越した控除を使えるのはその年の給与総額が前の年より増えている場合に限るとされています。

控除しきれなかった金額の繰越し 赤字の年に賃上げして控除しきれなかった金額は5年間繰り越せる。繰り越した控除を使えるのは、黒字で法人税があり、かつ給与総額が前年より増えている年。 使いきれなかった控除は5年間繰り越せる 賃上げした年 赤字で法人税がゼロ、 または上限20%を超えた 控除しきれない 繰越し 最長5年 申告書の明細で管理 使える年 法人税がある + 給与総額が前年より増 苦しい年の賃上げも、業績が戻った年に生きてくる ※令和6年度の税制改正で設けられたしくみです
図4 控除しきれなかった金額の繰越し(出典:中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」をもとに当事務所作成)

物価高で利益が出にくい年でも、人を確保するために給与を上げる。その判断は、繰越しのしくみがあることで、後の年に報われる可能性があります。

税理士として、私はこう考えます

「過去最高」は、正直ピンとこない

税理士 眞弓倫子

平均給与が過去最高と聞いても、正直ピンときませんでした。それは大企業の話であって、中小企業はやっぱり厳しい、というのが私の実感です。

昨今の物価高のあおりを受けて苦しいところも多く、人件費を簡単には上げられない。中小企業には、そういう側面がとても大きいと思っています。

だからこそ、上げられるときに上げた分は、制度を使ってきちんと取り戻していただきたいと考えています。

上乗せ要件は「知らなかった」が一番もったいない

賃上げ促進税制の基本の15%は、決算のときに給与総額を比べれば使えるかどうかがわかります。気をつけたいのは上乗せのほうです。

税理士 眞弓倫子

上乗せ要件については、知らなかった、知らなかったから対策していなかった、ということはあると思います。

たとえば、給与総額の増加が2.4%で終わるか2.5%に届くかで、控除率は15%と30%に分かれます。くるみん・えるぼし認定も、認定を受けた時期などに条件があります。決算が近づいてから気づいても、打てる手は限られます。

相談は「決算月の前の月」に

税理士 眞弓倫子

決算が終わってから「決算賞与を出していたら使えたのに」となることがあります。決算をまたいでしまったら、何もできません。

たとえば9月決算なら、8月中に相談して、利益との兼ね合いを見ながら決算賞与を決めていく。そのほうがいいと考えています。

決算賞与は、期末までに支払っていなくても、一定の要件を満たせばその期の損金にできます。国税庁によると、主な要件は次の三つです。

  • 支給額を、各人別に、同じ時期に支給するすべての使用人に通知すること
  • 通知した日が属する事業年度の終了の日の翌日から1か月以内に支払うこと
  • 通知した日が属する事業年度に、損金経理(経費として帳簿に計上)すること

中小企業庁のガイドブックでも、未払の給与は計上したときに損金になるため、計上した事業年度の給与総額に含まれると説明されています。

9月決算の会社の決算賞与スケジュール 8月中に利益の見込みを見て税理士に相談、9月30日までに決算賞与の額を各人に通知して損金経理、10月31日までに支払う。決算をまたぐと手を打てない。 9月決算の会社の場合 8月中に相談 利益の見込み・給与総額の確認 8月 9月30日までに 各人へ通知・損金経理 9月(決算月) 10月31日までに 決算賞与を支払う 10月 決算日(点線)をまたいでから決めても、間に合いません
図5 9月決算の会社が決算賞与を考えるときのスケジュール例(出典:国税庁 タックスアンサーNo.5350をもとに当事務所作成)

決算前にやっておきたいことチェックリスト

決算月の1〜2か月前に、次の項目を確認してみてください。できていない項目があっても大丈夫です。気になるところから、顧問税理士と一緒に確認していきましょう。

そもそも使える会社か

  • 青色申告をしている
  • 資本金1億円以下など、中小企業者等に当たる大企業から一定以上の出資を受けている会社や、前3事業年度の平均所得が15億円を超える会社は対象外です。
  • 今の事業年度が、令和9年3月31日までに始まった事業年度であるそれより後の事業年度については、今後の改正を確認する必要があります。

給与総額の見込み

  • 今期の給与総額の見込みを、前期と比べた1.5%以上増なら15%、2.5%以上増なら30%。決算前なら賞与で調整できる余地があります。
  • 役員や役員の親族への給与を除いて計算している役員(使用人兼務役員を含む)と、役員の特殊関係者は「国内雇用者」に含まれません。家族経営の会社は特に注意が必要です。
  • 雇用関係の助成金を受けている場合は、その扱いを税理士に確認した雇用安定助成金などは、計算のときに差し引く調整があります。

上乗せのチャンス

  • あと少しで2.5%に届く場合、決算賞与で届かせるかどうかを利益と見比べて検討した
  • くるみん認定・えるぼし認定(2段階目以上)を受けているか、受ける予定があるかを確認したトライくるみんは対象外です。認定を受けた時期にも要件があります。
  • 教育訓練費の上乗せは、令和8年4月1日以後に始まる事業年度では使えないことを知っている

決算賞与を出すなら

  • 決算月の前の月までに、税理士に相談している
  • 決算日までに、支給額を各人別に、支給対象の全員へ通知する
  • 決算日の翌日から1か月以内に支払う
  • 決算で未払賞与として計上(損金経理)する
  • 今期に給与総額を増やすと、来期はその金額が比較の基準になることも踏まえている来期にこの制度を使うには、今期の総額からさらに増やす必要があります。

赤字の年・申告のとき

  • 赤字でも、給与総額が増えていれば控除額を計算して繰越しを残す控除しきれなかった金額は5年間繰り越せます。
  • 繰越しがある場合、使える年(法人税があり、給与総額が前年より増えている年)を税理士と共有している
  • 申告書に、控除額とその計算の明細書(法人は適用額明細書も)を添付する

まとめ

平均給与は487万円。でも、小さな事業所との差の半分以上は賞与から生まれていました。物価高のなかで毎月の給料を上げ続けるのは、中小企業には簡単なことではありません。

だからこそ、利益を見ながら決められる決算賞与と、賃上げ促進税制を組み合わせて考えることをおすすめします。上乗せの要件を知っておくこと、赤字の年も繰越しを残すこと、そして何より、決算をまたぐ前に相談すること。この三つで、同じ賃上げでも会社に残るものが変わってきます。

当事務所では、決算月の前に利益と給与総額の見込みを一緒に確認し、決算賞与を出すかどうか、出すならいくらにするかを考えるお手伝いをしています。

「うちは今期、賃上げ促進税制を使えそう?」と気になった方は、決算月の前にお気軽にご相談ください。

相談を申し込む

参考資料

  1. 国税庁「令和7年分 民間給与実態統計調査」
    https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2025/minkan.htm
  2. 国税庁「令和7年分 民間給与実態統計調査結果の概要」(PDF)
    https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2025/pdf/2025_001.pdf
  3. 中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」(令和8年5月1日更新版)
    https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai/chinnagesokushin_gudebook.pdf
  4. 国税庁 タックスアンサー No.5350「使用人賞与の損金算入時期」
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5350.htm
  5. 週刊税務通信 No.3918(令和8年10月5日号)「国税庁 令和7年分の民間給与実態統計調査を公表」「主要な中小企業優遇税制のかしこい選び方 第2回 中小企業向け賃上げ促進税制」(税務研究会)

※本記事は令和8年10月7日時点の公表情報をもとに作成しています。制度の詳細は、各出典をご確認ください。

よかったらシェアしてください!