税務調査はAIで選ばれる時代へ|KSK2稼働で経営者が備えること

税理士コラム

「国税庁がAIを使って、税務調査に行く会社を選んでいる」。そう聞くと、ドキッとする経営者の方もいるかもしれません。

私の第一印象は、正直に言うと「まあ、当然の流れだよね」でした。どんな業種でも、どんな国でも、いまやAIを使わない仕事の進め方は考えにくくなっています。国税庁が使ってくるのは、むしろ自然なことです。

そしてもう一つ、先にお伝えしておきたいことがあります。ちゃんとしていれば、むやみに怖がる必要はありません。この記事では、国税庁の公表資料をもとに「いま何が起きているのか」を整理したうえで、税理士として私が考えていること、経営者の方に今日からやっていただきたいことをお話しします。

国税庁は、すでにAIで調査先を選んでいる

これは推測ではなく、国税庁自身が公表していることです。令和7年12月に公表された「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」には、次のように書かれています。

国税庁の説明(要旨)

AIを使った予測モデルで「調査の必要性が高い法人」を抽出し、モデルが判定した不正のパターンに加えて、申告書や国税組織が持っているさまざまな資料情報もあわせて分析。そのうえで、調査をするかどうかは最終的に調査官が判断しています。

出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和7年12月)

国税庁が調査先を選ぶ流れ 申告書や資料情報をAIの予測モデルが分析し、調査官が最終判断して、実地調査または簡易な接触に振り分ける流れの図 申告書 + 国税が持つ 資料情報 集まってくるデータ AI予測モデル 調査の必要性が 高い法人を抽出 不正パターンも判定 調査官 資料と合わせて分析し 最終的に判断 決めるのは人 実地調査 調査の必要性が 高い法人 簡易な接触 書面・電話・ 来署依頼 AIが選び、 人が決める。 ※国税庁の公表資料をもとに作成
図1 国税庁が調査先を選ぶ流れ(出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」をもとに当事務所作成)

同じ資料には、AIの分析を活用した事例も載っています。たとえば、決算書を分析したところ外注費が年々増えていた会社を重点的に調べた結果、取引の実態がない外注費が見つかった、というものです。ほかにも、売上代金を代表者の個人口座に入金させて売上を除外していた事例などが紹介されています。

「数字の動きがおかしい会社」を、AIがデータから見つけ出す時代になっている、ということです。

調査の件数は減っても、1件あたりの追徴税額は増えている

同じ資料によると、令和6事務年度(令和6年7月〜令和7年6月)の法人税等の実地調査は5万4千件で、前年より7.4%減りました。一方で、追徴税額(法人税・消費税)の総額は3,407億円で、直近10年で最も高い金額です。調査1件あたりの追徴税額も、前年の549万7千円から634万2千円に増えています。

実地調査の件数と追徴税額の比較 令和5事務年度と令和6事務年度の比較。実地調査件数は5万9千件から5万4千件に減少、追徴税額は3,197億円から3,407億円に増加。 実地調査の件数 5万9千件 5万4千件 令和5事務年度 令和6事務年度 7.4% 減 追徴税額(法人税・消費税) 3,197億円 3,407億円 令和5事務年度 令和6事務年度 直近10年で最高
図2 実地調査の件数は減り、追徴税額は増えた(出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」。棒の高さは目安です)

数字だけを見ると、「調査先をしぼり込み、そのぶん問題のありそうな会社に的確に行っている」という国税庁の姿勢が表れているように見えます。国税庁自身も、AIの分析結果と調査官の知見を組み合わせて、効率的で精度の高い調査をしていると説明しています。

実地調査の手前にある「簡易な接触」

もう一つ知っておいていただきたいのが「簡易な接触」です。これは実地調査ではなく、申告内容に簡単な誤りなどがありそうな法人に対して、書面での照会、電話連絡、税務署への来署依頼などで、申告書を自分で見直して提出し直すよう求めるものです。令和6事務年度の法人税・消費税の簡易な接触は8万5千件で、前年より13.4%増えています。

国税庁の「税務調査手続に関するFAQ」によると、こうした行政指導に応じて自主的に修正申告をした場合、過少申告加算税はかかりません(延滞税は納めることになる場合があります)。税務署から「お尋ね」が届いたら、放置せずにすぐ税理士に相談していただくのが大切です。

ちなみに国税庁の資料には、税務署からの書面照会を何度も無視していた無申告の法人が、情報収集の結果、実地調査に移行した事例も載っています。

9月24日、国税庁のシステムが新しくなる(KSK2)

国税庁は令和8年9月24日に、基幹システムの更改を予定しています。新しいシステムは「KSK2」と呼ばれています。

週刊税務通信(No.3916)では、書面を中心にした事務処理から、データを中心にした事務処理に移ることがKSK2の考え方として紹介されています。データで管理する情報が増えることで、申告漏れの可能性が高い納税者の判定など、AIやデータを活用した事務の高度化が進められるそうです。

経営者の方に直接関係する変更点を、国税庁の案内から抜き出しました。

変わること内容
お問い合わせ番号税務署から届く通知などに、13桁の「お問い合わせ番号」が印字されます。税務署に問い合わせるときにこの番号を伝えると、話がスムーズに進みます。
納付書など納付書と所得税徴収高計算書の様式が変わります。主な変更点は、8桁の「整理番号」欄が13桁の「お問い合わせ番号」欄になることです。
電子交付e-Taxで受け取れる通知の対象が広がります。電子で受け取りたい場合は、これまで電子交付を使っていた方も含めて、9月24日以降にe-Taxで「一括同意」の手続きが必要です。
申告書の様式一部の書面の申告書・届出書などの様式が変わります。申告書の「控用」はなくなる予定です。
e-Taxの停止システム更改のため、e-Taxが使えない時間があります(下の図)。

出典:国税庁「国税システムの更改について」。なお週刊税務通信(No.3916)によると、電子交付できる処分通知等は、現在の9通知から約1,000通知に大きく増えるとのことです。

令和8年9月のe-Tax停止時間 9月19日土曜0時から9月24日木曜8時30分までと、9月26日土曜の0時から24時までe-Taxが利用できない。9月24日に新システムへ更改。 9月のe-Taxが使えない時間 利用できません 終日 24日 8:30 再開 18(金) 19(土) 20(日) 21(月) 22(火) 23(水) 24(木) 25(金) 26(土) 27(日) 19日 0:00〜 電子申告・電子納税の予定がある方は、この期間を避けて早めに済ませましょう
図3 国税システム更改に伴うe-Taxのメンテナンス時間(出典:e-Tax「国税システムの更改に伴うメンテナンス時間について」)

国税局長が語った「データとAI」の使い方

同じ号の週刊税務通信には、今年8月に就任した東京国税局長のインタビューも載っています。KSK2や、GSS(デジタル庁が整備するネットワーク)が本格的に動き始めることを、今年の最大の課題として挙げていました。

インタビューによると、東京国税局では、メールやWeb会議、オンラインストレージなどを必要に応じて税務調査で使えるようになったそうです。また、申告情報に加えて外国の税務当局や民間機関からの情報も持っており、AIによる分析で納税者のコンプライアンスリスクを客観的に測り、人員配分に生かしていきたいという考えも語られています。

会社と社長個人のつながりも見えやすくなる?

同じ号に寄稿している税理士の愛知吉隆氏は、KSK2で税目ごとの縦割りのデータが統合されることで、会社と代表者個人との取引(お金の貸し借りと利息、不動産の賃貸と家賃、不動産の売買、複数の会社からの報酬など)の結びつきがはっきりし、不自然なお金の流れや申告漏れが見つかりやすくなるのではないか、という見方を示しています。

これはあくまで寄稿者の見立てですが、「会社のお金」と「社長個人のお金」をきちんと分けておく大切さは、これからますます増していくと私も感じています。

税理士として、私はこう考えます

AIを使うのは、もはや当然

税理士 眞弓倫子

国税庁のAI活用を知ったとき、怖いとは思いませんでした。いまはどんな業種でも、AIを使わずに仕事をするのはもう考えにくい時代です。私自身も日々の業務でAIを使っていますし、国税庁が使ってくるのは当然の流れだと受け止めています。

だからこそ、経営者の方に考えていただきたいのは「AIにどう見つからないか」ではありません。「データで見られても、きちんと説明できる会社かどうか」です。

大事なのは、数字の「なぜ?」を説明できること

AIは、決算書や申告書の数字から「いつもと違う動き」を見つけるのが得意です。でも、数字が大きく動くこと自体は、悪いことではありません。設備が壊れて大きな修繕をした年もあれば、原材料が値上がりして利益率が下がる年もあります。

問題になるのは、数字が動いた理由を誰も説明できないときです。逆に言えば、理由がはっきりしていて、それを裏付ける書類がそろっていれば、慌てることはありません。

経営者の方に、これだけはやめてほしいこと

税理士として、正直にお伝えしたいことが二つあります。

一つめは、社長個人のお金と会社のお金を混ぜることです。個人で使ったものを会社の経費としてまとめて入れてくる、といったことは、本当に困ります。先ほどの寄稿者の見立てのように、会社と社長個人のつながりはこれから一層見えやすくなっていくと思います。

二つめは、税理士に隠しごとをすることです。もし税務調査が来たときに「実は…」という事実が出てきて、私も知りませんでした、という状況になるのは避けたいのです。都合の悪いことも含めて正直に話していただけないと、調査の場で私が会社の立場をしっかり説明することができません。誠実に向き合っていただくことが、結局は会社を守ることにつながります。

私が決算のときに必ずやっていること

当事務所では、決算の数字ができあがったら、次のような確認をしています。

  • 必ず前期と比べる。経費があまりに増えている科目があれば、社長に理由をうかがいます。
  • 粗利益率(売上総利益率)を見る。異常に下がっているときは、在庫の金額がおかしくないかなどを確認します。
  • AIにも見てもらう。決算の数字と業種をAIに伝え、「同業の事業者と比べて経費の比率はどうか」を聞くと、いろいろな指摘をしてくれます。そのうえで、おかしなところがないかを私が考えます。

国税庁がAIで数字の違和感を探すなら、こちらも先に同じ目線で数字を見ておく。AIを使う税理士として、これは自然な備え方だと考えています。

数字の「なぜ?」を先に伝えておく方法

決算で「去年とだいぶ違うな」という数字を見つけたら、その理由を申告のときに税務署へ伝えておく方法があります。

数字の理由を先に伝える流れ 決算で前期と違う数字を見つけ、社長に理由を確認し、法人事業概況説明書の当期の営業成績の概要欄や書面添付で税務署に伝える流れ 手順 1 いつもと違う数字 前期比較・粗利率・ 経費の比率を確認 手順 2 理由を確認する 社長へのヒアリング 裏付けの書類 手順 3 申告で伝えておく 税務署が疑問に思う前に 説明を届ける 法人事業概況説明書 「当期の営業成績の概要」欄に記載 書面添付制度 税理士法第33条の2・第35条
図4 数字の理由を申告の段階で伝えておく流れ

法人事業概況説明書の「当期の営業成績の概要」

法人事業概況説明書は、法人税の申告書と一緒に提出する書類です。その中に「当期の営業成績の概要」という欄があります。国税庁の記載要領では、経営状況の変化によって特に影響があったことや、経営方針の変更によって影響があったことなどを、具体的に書くように案内されています。

当事務所では、たとえば「前期と比べて修繕費が大きく増えた」「ほかの費用が大きく増えた」など、明らかに去年と違っていて、税務署が気にしそうだと私が判断したところは、この欄に説明を書くようにしています。

なお、同族会社の場合、法人事業概況説明書には代表者への報酬や、代表者への貸付金・仮払金、代表者からの借入金・仮受金などの金額を書く欄もあります。社長と会社のお金のやり取りも、申告のたびに税務署へ伝わる情報だということです。

書面添付制度

書面添付制度は、税理士が申告書をどのように作成したか、どんな資料を確認し、どう判断したかを書いた書面を申告書に添付する制度です(税理士法第33条の2)。日本税理士会連合会は、これを税理士だけに認められた権利だと説明しています。

この書面が添付されている場合、税務署は、事前通知をして調査に入る前に、税務代理をしている税理士に意見を述べる機会を与えなければならないとされています(税理士法第35条)。国税庁の案内によると、この意見聴取の結果、調査の必要がないと認められた場合には、「現時点では調査に移行しない」旨の連絡が税理士に行われます。

税理士 眞弓倫子

書面添付は、以前勤めていた税理士法人で作成していたことがあります。確かに手間はかかります。

それでも価値があると思うのは、税務署が「なんだかおかしいな」と感じそうなことを、あらかじめ伝えておける点です。「そういうことか」と納得してもらえれば、調査に来られる可能性も低くなるのではないかと考えています。

経営者のための「AI時代の税務調査」チェックリスト

ここまでの内容をもとに、経営者の方に確認していただきたいことをまとめました。できていない項目があっても大丈夫です。気になるものから、顧問税理士と一緒に整えていきましょう。

日ごろのお金の管理

  • 社長個人で使ったものを、会社の経費に入れていない会社と社長個人のお金は、はっきり分けておきましょう。
  • 社長と会社のお金の貸し借り(貸付金・借入金・仮払金など)の中身を説明できる同族会社では、法人事業概況説明書に記載する項目です。
  • 売上の入金は、会社の口座で受けている国税庁の資料には、売上代金を代表者の個人口座に入金させていた事例が載っています。
  • 外注費や手数料などは、契約書・請求書・やり取りの記録で取引の中身を示せる国税庁の資料には、実態のない外注費が見つかった事例が載っています。

決算のとき

  • 前期と比べて大きく増えた・減った科目の理由を説明できる
  • 粗利益率が大きく変わった理由を説明できる(在庫の数え方も含めて)
  • 大きな修繕や設備投資、特別な損失は、見積書・契約書などの根拠資料を残している
  • 「いつもと違う数字」の理由を、申告のときに税務署へ伝える準備を税理士と話し合っている法人事業概況説明書の「当期の営業成績の概要」欄や、書面添付制度があります。
  • 都合の悪いことも含めて、税理士に正直に伝えている

KSK2の稼働にあわせて

  • e-Taxが使えない期間(9月19日0時〜24日8時30分、26日終日)を把握している
  • 税務署からの通知を電子で受け取りたい場合、9月24日以降の「一括同意」の手続きを確認したこれまで電子交付を使っていた方も手続きが必要です。
  • 税務署から届いた書類は、13桁の「お問い合わせ番号」を確認してから問い合わせる
  • 税務署から「お尋ね」や電話が来たら、放置せずに税理士へ相談する

まとめ

国税庁は、AIとデータを使って調査先を選んでいます。そして9月24日には新しいシステムが動き始めます。

でも、必要以上に身構えることはありません。お金の流れをきちんと分けること、数字が動いた理由を説明できるようにしておくこと、そして税理士に正直に話していただくこと。この三つがそろっていれば、データで見られる時代でも、むやみに怖がる必要はないと私は考えています。

当事務所では、決算の数字を前期と比べ、AIの分析も使いながら、「税務署が気にしそうなところ」を先回りして確認しています。AIが得意なことはAIに任せ、会社の事情を踏まえた判断と説明は、人である私たちがしっかり担います。

「うちの決算書、税務署から見たらどうだろう?」と気になった方は、お気軽にご相談ください。

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参考資料

  1. 国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和7年12月)
    https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/hojin_chosa/index.htm
  2. 国税庁「国税システムの更改について」
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/system.htm
  3. e-Tax「国税システムの更改に伴うメンテナンス時間について」(令和8年4月22日)
    https://www.e-tax.nta.go.jp/topics/2026/topics_20260422.htm
  4. e-Tax「処分通知等の電子交付について」
    https://www.e-tax.nta.go.jp/tsuuchi/tsuuchimenu.htm
  5. 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
    https://www.nta.go.jp/information/other/data/h24/nozeikankyo/ippan02.htm
  6. 国税庁「法人事業概況説明書」(記載要領を含む)
    https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/shinkoku/pdf/0021004-100.pdf
  7. 国税庁「税理士法に関するQ&A 4 書面添付・意見聴取制度」
    https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishiseido/qa/04.htm
  8. 日本税理士会連合会「書面添付制度」
    https://www.nichizeiren.or.jp/taxaccount/document/
  9. 週刊税務通信 No.3916(令和8年9月14日号)「Q&Aでわかる国税庁KSK2移行の影響」「東京国税局長 就任インタビュー」「税務調査を乗り切るポイント⑲ 法人事業概況説明書等の活用方法」(税務研究会)

※本記事は令和8年9月16日時点の公表情報をもとに作成しています。制度の詳細は、各出典をご確認ください。

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